カプタの苗床――51[守]の開講1週間

2023/05/14(日)13:03
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 開講から1週間経った51[守]では、早くも<勧学会>に「苗床」が生まれつつある。

 

 学衆が自ら「発信するロール」を担った教室もある。吉田麻子師範代の若水尽きぬ教室では、開講翌日の9日に、学衆Mが「こんな情報ありました」と発見したエディストの記事を紹介した。
 カルメンおいで教室の伊藤誠秀師範代は、同じく9日、<編集食堂 カルメン>を早くもオープンした。セイシュー大将の食堂には学衆Sが駆けつけ、早速、稽古への思いを込めてAqua Timezの「虹」を披露した。どうやらこの食堂は、カラオケスナックにも早変わりするらしい。
 シビルきびる教室の佐土原太志師範代は、学衆FとNから指南感想が届いたという与件を受け、勧学会に<みんなのノート>をぶら下げた。記念すべき第一筆は学衆H。「伸び代No.1を目指す」と頼もしい宣言を書き記した。それを受け、学衆Fも駆けつけた。
 ホンロー・ウォーク教室の本間裕師範代は、<草枕のひび>という呟きページを設置。学衆Eの回答のマクラをあえて勧学会で引き取って、<草枕のひび>で応接した。早速Eとの対話も生まれている。
 光合成センタイ派教室の山本昭子師範代は、11日早朝の関東地方の地震を受け、「地震大丈夫でしょうか?」と学衆Kに呼びかけた。すぐに「無事です」と応答するK。こうしたやりとりも勧学会ならではだ。
 南田桂吾師範代のルイジ・ソージ教室では、学衆Fから「自己紹介が楽しみ」との書き込みがあった。稽古がリズムにのりはじめ、いよいよ「自己紹介」だ。これからお互いの解像度が上がっていくだろう。

 

 編集稽古の<教室>があるのに、なぜ<勧学会>という場があるのか。
 疑問に思う人もいるかも知れないが、<勧学会>こそイシス編集学校ならではの「場=苗床」だ。アーキタイプを探るなら、<勧学会>はイギリスのコーヒーハウスであり、フランスのサロンだ。
 17世紀後半に登場したコーヒーハウスからは、小説や政党、ジャーナルや広告が生まれた。サロンにはヴォルテールルソーらの知が集結し、書籍や百科全書、化粧品を流行させる発信基地となった。日本に目を転じれば、茶室と茶席がつくりあげたクラブ・サロンが、楽茶碗や織部焼をなどの文化を生んだ(#1502「クラブとサロン」)。茶の湯自体、連歌という座の文化から派生している。松尾芭蕉はひとりで俳句を詠んでいたわけではない
 そう、文化はひとりでは生まれない
 
 今や簡単な質問や壁打ちは、ChatGPTに答えてもらえる。ググれば情報が手に入る。14日の39期花伝所・入伝式で、吉村堅樹林頭は「現代はカプタがやせ細っている」と訴えた。カプタ(capta)とは「いろんな見方ができる情報」のことだ。一方で、「意味が固定化した情報」がデータ(data)だ。
 たとえば貨幣の交換は、データの交換である。ChatGPTも、ググった情報も、貨幣もデータだ。だが文化はどうか? 意味や価値は、カプタの交換があって初めて生まれる。文化はそもそも、カプタの交換を伴っているのだ。
 いろんな見方をいろいろな方法で持ち込める場こそ、<勧学会>だ。アヤシくて香ばしいイシス流「クラブ・サロン」では、夜な夜な、見方の交換が行われる。見方は重ね合わされ、そこから新しい意味や価値が生まれる。そう、ここは、「世界観の苗床」であり、「創発を起こす苗床」なのだ。


 51[守]19教室の苗床からは、何が育つだろうか。

 

(文/51[守]師範 角山祥道)

  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。