フライヤーはためく開講前夜【51守出遊】

2023/05/04(木)05:31
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 菖蒲と蓬が軒先に連なり、鯉のぼりと吹き流しが悠々と空を泳ぐ。15週間の51[守]の開講直前、イシス編集学校ではためくのは19色の教室名フライヤーだ。竜を目指す19匹の鯉ならぬ19人の師範代たちが、その跳躍力を総動員して「こんな教室にしたい!」と決意を1枚にあらわした。

 

 遊泳を心待ちにする彼らが、未だ見ぬ学衆に向け、教室名のユニークネスと編集稽古の魅力を語ったのは、4月初旬の伝習座でのことだ。以来、日々新たになる決意、今一度ここに掲げよう。

 


若水尽きぬ教室の師範代、吉田麻子は、熊本から本楼に馳せた。火の国であると同時に水の国でもある熊本に肖り、学衆各々に潜む編集の泉を掘り起こしたいと志は晴れやかだ。

 

 

流れる青白の絵の具が織りなす清涼感モードは、編集世界の元日に相応しい。「あらたまる」ことでこそ、情報はあらたな姿を見せる。神に捧げ、自ら口にする若水。美しい景色と眺めずに、飛び込み飲み尽くしてほしい。

 

紙面から蒸気が飛び出さんばかりに吹くやかんと同じく、高温なのが、熱~いヤカン教室師範代の和泉隆久である。「火加減を調節して教室を沸かせるのが私の役目」と学衆に向き合う覚悟は堅い。

 

 

「やかんモデル」で型稽古を見立てた、インタースコア編集の王道だ。モデルで見ることで「教室の火加減」を工夫しようという思考が働く。イシスの炎によって沸き出す蒸気は、情報と学衆が混然となる「才」だろうか。

 

カタルトシメス教室の師範代、新垣香子は、校長直筆の教室名カードで埋め尽くされた後景を背負った。前日にアップされた『全宇宙誌』册影帖から「回転」というキーワードを引く卒意が頼もしい。

 

 

分けて分けない「カタル」と「シメス」の同時性を、自転車の両輪モデルに託した。浮遊感を支える光の玉は、ETの超能力ではなく編集術だ。言葉づかいが世界そのもの。語ると、パステルアートの物語世界が生まれた。

 

多くの者が声を震わせるなか、科学者然と冷静なのが、配列変えます教室師範代、森下揚平だ。締切直前まで躍動感にこだわって仕上げた作品だが、学衆と共に更なる配列変えを起こす心積もりだ。

 

 

配列の典型DNA螺旋、本の並び、太陽系列に、謎のクレヨンや猫や風鈴が交わり列を乱す。異質こそ「変えます」の契機と謳う「いじりみよ」コピーがそこに呼応した。既知の配列を徹底取材し、未知の運びは猫に委ねる。

 

三度目の登板となる分人庭師教室の師範代、鈴木哲也は、学衆のため、生まれ変わるが如く自らに更新をかけることを課している。真直ぐな立ち姿から、本楼中に響き渡った清々しい声が耳を離れない。

 

 

剪定鋏を振りかざし街を飛び交う庭師土偶。思わぬ組み合わせ編集が、インパクトのあるヴィジュアルを生み出した。土偶は歴史か私たちの形代か? 街にどう編集の鋏を入れるのか?情報同士が出会うとき、想像を生む。

 

 51[守]は、ゴールデンウィーク明けに開講する。教室名フライヤーは、まだ完成していない。学衆を迎えてからが本番だ。変化も成長も急流突破も、異質や異物との出会いによって加速する。教室という場に身を預け、登りきった先には、どのような作品に変身を遂げるのか。皆の衆、いざ出遊だ。

 

(文:阿曽祐子 アイキャッチ・フライヤーレビュー:阿久津健)

 


◆イシス編集学校 第51期[守]基本コース◆
日程:2023年5月8日(月)~ 2023年8月20日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu

 

 

 

 

 

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。