連環する問い、往還する学び―50[守]

2023/04/25(火)12:43
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Qを入れるとAが出てくる。検索のその先はAIが問いに答える時代なのだろうか。

 

ChatGPTを始めとする生成AIが生活に織り込まれ始めた。問いを投げ込めばAIが膨大なデータをもとに応じてくれる。今はまだ揺らぎを内包しているが、このまま世界に散らばる情報を取り込み続ければ、精度を高めていくことは間違いない。生成AIに警鐘を鳴らす声はむしろシンギュラリティの足音にすら聞こえる。世界は手垢のついた言葉をつなぎ合わせたAに覆われてしまうのか。

 

編集学校はAでとどまらない。Q&Aではなく、Q&E。新たに編集が始まり、問いがさらなる問いへとつながっていく。問いは往還するのだ。50[守]特別講座の「田中優子の編集宣言」に集まった膨大な問いは2万字に及ぶ回答集に結実した。問いを素通りせず、重ねられた田中優子の「返」が熱に変わり、新たな問いを生み出し始める。

 

外骨ジャーナル教室の学衆ツチダにとって質問回答集は「機」となった。テキストだけのつながりから生じた豊穣に憧れ、言葉から想像力をドライブさせたいと願う。ツチダの問いは外骨ジャーナル教室で新たなうねりとなった。その起点が「積読くずし」と題した自主稽古だ。1冊目の積読本『地図マニア 空想の旅』では、地図を二軸四方で分ける。38のお題を身体に通しながら本を読む試みだ。

 

ツチダに触発され、他の学衆からも新たな問いが生まれていく。ドイが考案した教室の「らしさ」の一種合成は、新しい四字熟語で外骨ジャーナル教室を表すお題だ。テキストベースでどこまでできるか、38題の稽古が終わった教室で学衆たちはとことんまで遊び倒す。

 

学衆たちが重ねたQ&Eはそれぞれのエディティングキャラクターをも突出させる。場を照らし、暖めるツチダ、対話の根っこを深くまで伸ばすドイ、そして、キリコさんはそれぞれの言葉をつなぎ合わせ、いきいきとさせる。三者の瑞々しい対話がもたらした一座建立に師範代の山下はオドロキとヨロコビを隠さない。新しい「わたし」に出会ったのは学衆だけではない。場を作った師範代も自らを破り、編集し直す。

 

ありきたりの情報を飲み込む生成AIが生み出すのは既知でしかない。それに対し、編集学校は未知に向かう。問いが生み出すのは答えだけではない。問いに応じて編集が始まり、新たな問いが波及していく。だからこそ、創発を生み、相互編集を経て、学衆の可能性が拓かれる。

 

「田中優子の編集宣言」は特異点として問いの連鎖の起点となった。50[守]の加速は止まらず、進破者が続出、急遽教室数を増やした50[破]がいよいよ開講する。ツチダたちも新たな問いを胸に破の教室の門を叩く。彼らのより遠くの未知に向かう編集はまだ始まったばかりだ。

 


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日程:2023年5月8日(月)~ 2023年8月20日(日)
ご参加希望の方はお申し込みをお急ぎください。
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu


 

  • 佐藤健太郎

    編集的先達:エリック・ホッファー。キャリアコンサルタントかつ観光系専門学校の講師。文系だがザンビアで理科を教えた経歴の持ち主で、毎日カレーを食べたいという偏食家。堀田幸義師範とは名コンビと言われ、趣味のマラソンをテーマに編集ワークを開催した。通称は「サトケン」。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。