【MEditLab×多読ジム】病の相互編集(北條玲子)

2023/04/13(木)08:00
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多読ジム出版社コラボ企画第四弾は、小倉加奈子析匠が主催するMEditLab(順天堂大学STEAM教育研究会)! お題のテーマは「お医者さんに読ませたい三冊」。MEdit Labが編集工学研究所とともに開発したSTEAM教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab-医学にまつわるコトバ・カラダ・ココロワーク」で作成したブックリストから今回のコラボ企画のために厳選した30冊が課題本だ。読衆はここから1冊選び、独自に2冊を加えて三冊セットを作り、レコメンドエッセイ三冊屋(500〜600字)を書く。MEdit賞はいったい誰の手に?

 

 そむけたる医師の目をにくみつつうべなひ難きこころ昂る(『白描』明石海人)

『ハンセン病を生きて きみたちに伝えたいこと』の伊波敏男は、高校で学びたい一心で、施設を脱走した。すでにハンセン病は、適正な治療をすれば伝染を恐れる必要がないにも関わらず、日本では隔離政策が続けられた。
 社会から隔絶された著者は、施設を脱走し入学した高校の図書館のたくさんの本を読むことで、心を支え、癩者を拒んだ社会を見据えた。医師の中にすら、ハンセン病の隔離を訴え続ける者はおり、忌避の心は根深かったのである。差別によって壊された心は誰が癒すのであろうか。
『フラジャイル』には、ハンセン病患者がどのように社会から、この世の果てに押し込まれたか、その過程が浮き彫りにされている。社会が差別の病を作ったのだ。
 歌人、明石海人は、朽ちゆく体で歌を詠み続けた。明晰な思考に磨き抜かれた『明石海人歌集』は心に迫る。冒頭に掲げた歌は診断の日の苦悩だ。しかし、歌を作り続け、癩は天啓であると病を受け入れた。生きるとは表象することであり、社会と繋がることである。治療は体だけではなく、社会と繋がることができるよう、医師と患者の相互編集が求められている。

 さくら花かつ散る今日の夕ぐれを幾世の底より鐘の鳴りくる(明石海人)

 

Info


⊕アイキャッチ画像⊕
∈『ハンセン病を生きて きみたちに伝えたいこと』伊波敏男/岩波ジュニア新書
∈『フラジャイル』松岡正剛/ちくま学芸文庫
∈『明石海人歌集』明石海人/岩波文庫

⊕多読ジムSeason13・冬⊕
∈選本テーマ:お医者さんに読ませたい三冊
∈スタジオらん(松井路代冊師)

  • 北條玲子

    編集的先達:池澤祐子師範。没頭こそが生きがい。没入こそが本懐。書道、ヨガを経て、タンゴを愛する情熱の師範。柔らかくて動じない受容力の編集ファンタジスタでもある。レコードプレイヤーを購入し、SP盤沼にダイブ中。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。