違和感・イワカン・いわかん――返景会の50[守]

2023/01/21(土)13:09
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 50守の師範たちが学び合っている場があると聞いて、覗いてきた。今期立ち上がった「返景会」だ。端的にいえば、「師範」というロールをアップデイトする試みだ。

 この日1月18日の返景会では、50守特別講義「田中優子の編集宣言」を師範がどう受け取り、どう問い直したか、ということが交わしあわれた。エディティングモデルごと丸っと交換する学びの会である。


 ん? 師範が学ぶ? 


 誤解を与えないように丁寧に説明すると、イシス編集学校に「教える」ロールはない。師範代の指南も、学校の先生のそれとは異なる。では何をしているのか。自身が気づいたこと、受け取ったこと、学んだことを、指南や問いのかたちに変換して、相手に「返」しているのだ。
 「返」するためには、学び続けなければいけない。「今までこうだったから、今回もこれでいいでしょ」という方法は通用しない。

 

 今回で3回目を迎えた「返景会」で、主宰の景山和浩番匠が用意していたテーマは、「違和感」だった。

違和感で世界はできている

 渡辺恒久師範は「集団を離れ、ひとりになった人が目を伏せ、自分を閉ざしている」ことに違和感があると続けたが、たしかに到るところに「違和感」は落ちている。
 
 2022年に開催された、多読ジムSP「村田沙耶香を読む」。村田さん本人の口から明かされたのは、「違和感」を大事にしている、ということだった。これまで冷凍保存してきた違和感を解凍し、小説の中で言葉にする、という方法だ。
 村田沙耶香さんに倣うなら、「違和感」は編集の「機」となるということだ。景山番匠が唐突に「違和感」を持ち出したのも、これを機にしてほしい、ということではなかったか。
 ではどうやったら機になるだろう?
 箇条書きで連ねてみる。

 

1.違和感を持った自分を振り返ってみる

2.過去の違和感をたどってみる

3.違和感を覚えた人や考えを自分の中に入れてみる
4.違和感があったことを編集し直してみる

 

 1はイシスでいうところのリバース・エンジニアリングだ。なぜ違和感を覚えたのか。何に違和感を持ったのか。2は破でやるクロニクルだ。平均や普通にあわせようとして、棚上げしてきた違和感や封印してきた違和感は何? と遡ったことで見えてくるものがあるはずだ。3は「たくさんのわたし」に直結する。自分には思いつかない回答や指南=違和感を受容すると、「わたし」が増えていく。社会や地域、会社や学校に「違和感」があったならば、それを言語化し、編集し直すことだってできる。
 
 相部礼子師範は、「ある師範代の指南に違和感がある」とコトアゲした。

自分では用いない指南なので戸惑ったが、よくよく見ていくと、こういう方法もありなのかと思えた。できれば、この方法を取り入れて、3回目の師範代をやってみたい

 違和感が「機」になった瞬間だった。

 

(アイキャッチ素材、引用/『字通』(ジャパンナレッジ)より)

 

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  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。