九天飛永の「本日のテンキ」、いよいよラストスパート

2022/12/16(金)08:15
img POSTedit

 九天玄氣組(以下九天)のラウンジに毎晩とどくひとひらの言の葉がある。飛永卓哉(38破/福岡)の「本日のテンキ」である。九州ゆかりの本や千夜千冊から、短いフレーズを抜き出してアップする試みだ。1年間の期間限定で2022年1月1日にスタートし、欠かすことなく届け続けた。そのテンキ連載が、この年末でいよいよゴールを迎える。

 ここまでどんな言葉がラウンジを彩ってきたのか、10月に開催された組内アワード企画「年間テンキ☆ランキング2022朱夏篇(7~9月期)」の投票結果から、人気を集めたテンキの言葉を紹介しよう。

 

 9月4日

「草によろしく」

 

(石牟礼道子の母ハルノさんが)

晩年になってね、

癌で亡くなられたんだけど、

その時ね、見舞いに来た人が、

これから裏山に行くって言ったらね、

 

「草によろしゅう言うとってくれ」

って言いよんなはった。

 

『肩書きのない人生 渡辺京二 発言集2』

「道子の原郷」より 弦書房(2021)

 

 

 今年、九天は森崎和江と石牟礼道子を集中的に読み、現在は谷川雁を共読中だ。それと歩調をあわせるように、テンキにもこの3人に関連した言葉がたびたび登場した。

 

 

 8月16日

「松永耳庵の終戦」

 

サー皆さん戦争もおしまい、

お茶の世の中になりました。

お祝に皆さんに一服差し上げます。

 

『没後50年電力王松永安左エ門の茶』福岡市美術館(2021)

 

 時節とのカサネアワセも毎日連載の醍醐味だ。

 

松永の言葉は玉音放送を聞いたあとの第一声だった。

 

 8月3日

「手を動かせ」

 

(創造の)袋小路に入った場合には

とにかくきわめて意識的に書き込むっていうこと。

つまり手を使うっていうこと。

書き込むっていうことを「やれ!」っていうことなんですよ。

 

吉本隆明講演「実朝論」

新宿紀伊國屋ホール(1969)

 

 手作業・手仕事好きの多い九天組員らしいチョイス。そのクラフトマンシップは毎年校長に贈られる年賀にも反映している。

 

 以上3つが7~9月期ランキングのTOP3であるが、不思議なことに飛永自身のお気に入りとも重なっていた。いずれの言葉も、迷うことなくぱっと切り取れたものだった。この感覚は、良い写真が撮れたときの手応えと非常に近いと飛永はいう。かつてアルバイトで結婚式の写真を撮っていたときのことだ。自分の心が動いた瞬間と撮れたものが一致したとき、それは納得のいく一枚になった。場と自分を重ねて、瞬間を切り取る。かつて写真で培った方法が、現在のテンキ連載においても活かされているのかもしれない。

 

 残り半月を切った「本日のテンキ」。かつて自分にとっての宿題だと言っていた万葉集や西郷隆盛の言葉にも挑戦し、ゴールに向けてますます加速中だ。今年最後のテンキを届け終えたあとに、飛永の目に映るのはどんな景色なのか楽しみである。

 

飛永の故郷雲仙・仁田峠の眺望

 

  • みとま麻里

    編集的先達:藤原定家
    めんたいエディトン、中洲マリリン。二つの福岡ゆかりの教室名。イシスの九州支所・九天玄氣組の突撃女隊長。その陽気さの裏には知と方法と九州への飽くなき探究心をもつ。着付師をしていたという経歴の持ち主。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。