LINEスタンプ作りました!【おしゃべり病理医66】

2022/11/03(木)08:27
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 順天堂大学内に、「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」を立ち上げることになった。研究会の専用サイトが近日中にオープンする。中高生や一般の方々に、医学や医療を編集工学的に楽しく学んでもらうことが目的の研究会である。以前に「おしゃべり病理医のMEdit Lab -医学Medicine×編集Editで世界を読む」おしゃべり病理医のMEdit Lab -医学にまつわるカラダ・ココロ・コトバワーク」という2つの動画教材を編集工学研究所のみなさんとともに製作した。今回は、そのプロジェクトの延長線上にある研究会で、経済産業省を含めた省庁が推し進めているSTEAM教育を私たちなりに継続するとどうなるか、という試みである。私のひそかな野望(と、ここで堂々と話している時点でひそかじゃなくなるのだが)は、編集工学を世の中にもっともっと広めることで、閉塞感漂う教育現場に編集工学をもってなんらかの一石を投じたいと思っていた。今回のプロジェクトメンバーは、教材開発で様々なアイディアを出し続けてくれた金宗代さんと、千夜千冊でもおなじみのデザイナー、佐伯亮介さん、そして、日ごろ、一緒に働いている後輩病理医の發知詩織さん(実は、49破を受講中、あだ名は”しんしん”)と私の4名。金さんと佐伯さんはこのたび、「SaiQuic(サイキック)」というコンビを組むことになって、研究会でも堂々とSaiQuicを名乗っている。

 春ごろからSNSをはじめとした広報の方法や研究会で配信していくコラムの内容など、プロジェクトチームであれこれ考えてきた。

 

 中高生は日々どんな形で情報を集めているのだろうか。アンケートやヒアリングを通して色々わかってきた。Facebookはまずほとんどの中高生は活用していない。「お父さんやお母さんが使っているSNS」という認識らしい。彼らはもっぱら、InstagramやTikTokを観て、友人や家族とはLINEで連絡を取り、もう少し詳しい情報を得たい時や調べ学習の際に、ググるのだとか。『スマホ脳』という本がベストセラーになっているし、千夜千冊(1586夜)に取り上げられている『ネット・バカ』『オートメーション・バカ』でもスマホやネットが脳に与える影響の大きさを問題視する意見も非常に大きくなっているし、実際、中高生のネットやSNSに対する過集中や依存に対して何らかの対策が必要であるだろう。しかし一方で、与えられた今の情報環境の中で、様々に編集的な試みをしていくことは編集工学を学んできた私たちの使命でもあると思う。

 

 調査結果をもとに、研究会サイトとLINEを行ったり来たりできるような仕組みを考えることにした。研究会のLINE公式ビジネスアカウントを作り、研究会からのイベントやセミナー開催情報や最新の連載コラムなど、LINEからも届けるようにした。Instagramは、オフィシャルなものよりプライベートな側面が見えた方が面白いようで研究会公式のInstagramではなく、わたし自身の個人アカウント(oshaberi_patho_ogukana)から情報発信することにした。

 

 そんな研究会のメディエーションについての話し合いの延長線上で、LINEスタンプを作ろうという話になった。夏ごろから日常の病理診断と[離]の稽古のための図解編集の合間を縫って、スタンプ用の原画をひたすら描いた。そうなってくるともはや“おしゃべり病理医”というより“おえかき病理医”である。

 

 そしてこのたび、ようやくみなさんにLINEスタンプをお披露目することができる。「おしゃべり細胞スタンプ」「五臓さんスタンプ」どちらも40個セットでLINEストアから販売中!

 

 

MEdit Lab公式LINEスタンプ「おしゃべり細胞スタンプ」と「五臓さんスタンプ」

細胞スタンプは、今後、研究会サイト内において40個ひとつずつの医学的意味についての解説コラム「おしゃべり病理医スタンプ図鑑」がスタート予定。五臓さんは、MEdit Labの公式キャラクター。五臓は、もちろん五臓六腑の五臓であり、研究会の5つのコンセプトを体現している。買いたい!と思ってくださった方は、上記の画像をクリックしていただくか、LINEストアで「おしゃべり細胞」「五臓さん」で検索してみてください!

 

 ここまでかなりの紆余曲折があった。当初、LINEスタンプを無料で配布したいと考えていたのだが、無料スタンプを配布する作戦に出る企業は少なくなく、LINE会社に数百万以上の手数料を支払わなければならないことが判明(しっかり儲かる仕組みができているなぁと半ば感心するとともに、グローバル資本主義のからくりが表れていることを再認識した)。仕方なく、無料配布を断念して販売に切り替え、諸々の事務手続きを終えて審査を受けると、五臓さんスタンプは「肌の露出が多すぎる」「(スーパーマンっぽい絵が)二次創作にあたる」という理由でリジェクトされた。五臓さんは、「十二経奇経八脈図」という中国古代医学の図のデフォルメから生まれたキャラクターで、気の流れ、ツボの配置などがもともと記されているのだから、裸体で肌の露出が多すぎるのは当たり前なのだ。うーむ、困った。そこで仕方なく、五臓さんにはショッキングピンクの全身タイツを履かせ、再審査へ。すると今度は、インドネシアでの販売ができないということが判明。イスラム教徒の多いインドネシアでは、販売が許可されないLINEスタンプがかなり多いようで、五臓さんもそれにもれなくひっかかった。理由は明確になっていないのだが、怒りに近い感情を人前であらわにしたり、不浄な左手を使っている絵があるとダメなようだ。インドネシアのみなさまに五臓さんの素敵さをわかっていただけないのは残念だったが、インドネシアを販売地域から外した形で無事、お披露目と相成った。

 

 今後は、これらのスタンプを使った医学コラムも配信予定。遊んで楽しみながら医学を少しでも身近に感じる人が増えればいいと思っている。既存のサービスを活用しつつ、編集的な余地を探したい。

 


追伸1:LINEスタンプは、おぐらが書いた原画に、ウェブデザイナーの佐伯亮介さんが彩色してくださった。細胞にも五臓さんにも生命力を吹き込んでいただき感謝いっぱいです。佐伯さんがデザインしてくださった研究会ポスターはまたご紹介したいと思います。

 

追伸2:LINEビジネス公式アカウント「MEdit Lab 順天堂STEAM」にもぜひお友達登録してくださいね! → @juntendo.meditlab

 

  • 小倉加奈子

    編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。