この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

物語編集稽古の翻案に対し「原作の焼き直しを根絶する!」と宣言したかどうかはさておき、汁講でのリアル編集稽古に比叡おろし教室のふくよ(福田容子)師範代は燃えていた。今や汁講の定番プログラムとなったリアル編集稽古は、お題の理解を深め、稽古の充実をもたらす貴重な時間だ。
合同開催となるタクラミ草紙教室の阿久津健師範代は、翻案のためのワーク資料として、千夜千冊0778夜『建築書』(ウィトルー・ウィウス)、1542夜『借りの哲学』(ナタリー・サルトゥー=ラジュ)を使うことを考えていた。原作にある物語から何を借りるのか、自身が学衆だった40[破]当時の野嶋真帆師範のレクチャーで、ハッと気づいた瞬間があったという。そのときの思いも含めて伝えたいと企んでいた。
12月22日(日)、汁講当日。阿久津師範代による千夜の紹介に続き、リアリティのある世界をどう描くのか、ふくよ師範代リアル編集稽古は、『物語編集術』の第一章「ワールドモデル(世界構造)」の共読から始まった。
「ワールドモデルって、メッセージがないと作れないんじゃないですか?」。口火を切ったのは、タクラミ草紙教室の高木さん。そこに翻案での行き詰まりを感じていた比叡おろし教室の羽根田さんが、悩みを打ち明けた。「伝えたいメッセージがあるけど、ワールドモデルにうまく嵌まらないというか…」。問いの重なりがメッセージに対する共読を深めていく。顔を見合わせる学衆に、渡辺高志師範も言葉をかける。「メッセージって変わっていくんじゃないのかな。知文で学んだ書けないものに向かっていくように」。
メタファーでワールドモデルを読み解こうとしたのは、比叡おろし教室の角山さんだった。「それって『箱庭療法』みたいなもので、組み上がるものにメッセージが立ち上がってくるんじゃないの。違っていたら、ほかの箱に変えることもできそうだし」。編集が動き出し、ふくよ師範代の顔がほころぶ。「そうそう。載せるものによって箱を変える。お盆なら、お菓子によって、木のお盆から銀色のトレーに移し替えてみるとかね」。
稽古熱は冷めやらず。懇親会の店に舞台を移し、延長戦に突入した。
2019年12月22日(日)
「比叡おろし教室、タクラミ草紙教室」合同汁講
◎43[破]原田淳子学匠 八田英子律師 渡辺高志師範
◎比叡おろし教室 福田容子師範代
参加学衆:角山祥道、勝浦航、木田俊樹、羽根田月香、渡邊紗羅(敬称略)
◎タクラミ草紙教室 阿久津健師範代
参加学衆:岩田香純、清水瑛美子、高木文堂、水原三香(敬称略)
わたなべたかし
編集的先達:井伏鱒二。けっこうそつなく、けっこうかっこよく、けっこう子どもに熱い。つまり、かなりスマートな師範。トレードマークは髭と銀髪と笑顔でなくなる小さい目。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。