この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

われわれはヴァージョンを制作することで世界を制作する。
入伝式で松岡校長から手渡された「乱世」という言葉を誰もが実感せざるを得ない事件が起きた翌日。
2022年7月9日、キャンパーとなった入伝生と「花守衆」に着替えた指導陣がラウンジに集合した。花伝所のキャンプは2日間。全てオンラインで、しかも文字だけで行われる。最初のプログラムは、懐かしい守のお題に再会し、入伝生同士で学衆・師範代ロールを担い、回答・指南を交わし合う「指南三昧」。早速飛び出したスピードスターTの回答を皮切りに、指南の応酬が始まった。厳しい錬成を経た指南の言葉は、回答を発見的に読み対話を楽しむものへと、大きく変貌している。指南を受け取った学衆役は、師範代役に詳細な評価を返し、お題を介した問感応答返のループが回っていく。
「コンパイルとエディットのそれぞれの要素の揃え、掛け合わせがT師範代の特徴だと思います。」
(M:うた座)
「飛躍がないことに対して、やんわり、でも明確に指摘、言葉を尽くして説明、例も挙げてくれているのは、おおいに納得感がありました。」
(Y:かた座)
単なる感謝や賛美に終わらない方法的な評価の言葉、その成長に指導陣は目を見張った。
◇ ◇ ◇
続いて、グループワーク。
「い・ろ・は・に・ほ・へ」の6組に分かれたキャンパーはそれぞれ異なる社会課題を題材に、守講座38番の編集稽古をアレンジし講座を仕立てる。出題は1日目の午後3時、提出期限は2日目の午前11時。制限時間は夜間を入れて15時間。海外参加組の時差、仕事、子育て、事情編集を尽くしても、参加できる時間にズレがでる。共同作業は至難の技だ。それでもキャンパーたちは、一癖も二癖もある課題に果敢に立ち向かう。夜を徹してアイディアを交わし合い、38番のお題の目的や意義にも手を伸ばし、制限時間を大きく超えることなく、駆け込むように全チームが回答を提出した。しばらくして花目付から届いた講評には健闘を称える言葉に続いて、こんな言葉が記されていた。
編集工学の語り部として何を語り継いで行くべきなのか、このことは是非とも考えつづけていってください。
(深谷もと佳花目付)
編集稽古が編集学校を離れた場で展開される世界を仮設し、編集工学を徹底的に掘り下げることを課した問いは、「語り部」として「代」として、共に編集を志す「仲間」として、編集学校を内外で担う覚悟を求めていた。師範陣からも各グループに続々と講評が届く。
2か月前に掲げた「虚」もそろそろ実になってくる時期です。道場稽古・錬成稽古を経て、指南以外の有事・平時で「師範代のふるまい」を保てているかに評価の目を向けていきたいと思います。
(中村麻人師範)
たった2ヶ月、もう2ヶ月。
◇ ◇ ◇
恒例の「キャンプファイヤー」は19時にスタート。
キャンパーたちが再びラウンジに集まってくる。グループワークを振り返るという課題に応じるため、最初に火を灯したのは【に】組のK。6つ全てのグループがそれぞれに火種を持ち寄り、過去数時間のグループワークを振り返り始める。できなかった挑戦への後悔から、話題は自分や仲間の編集モデルの発見や評価へ移り、やがて、不足を捉え未来を展望する声へと対話の火は高く燃えあがり、キャンパーたちの頬を照らす。
「編集状態でいるために、どのような工夫をされていますか?」【は】組のEが投げ入れいた問いに、複数の師範が応じた。疲れ切っているはずなのに、熱い言葉が途切れない。「私たちはもう学衆ではなく、入伝生なんですよね。」キャンプファイヤーの終盤にふと漏れた【い】組のKのつぶやきを、神尾美由紀師範は見逃さなかった。
この言葉、値千金です。
そう。みなさんは学衆ではなく、入伝生です。キャンプを終えられた今となっては、ほぼ師範代です。
(神尾美由紀師範)
花伝所の短くて長い学びが、まもなく閉じようとしている。
入伝生たちは思いを新たに、覚悟を胸に、それぞれが着替えの時を迎える。
文 牛山惠子(錬成師範)
アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)
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イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
マッチが一瞬で電車になる。これは、子供が幼い頃のわが家(筆者)の「引越し」での一場面だ。大人がうっかり落としたマッチが床に散らばった途端、あっという間に鉄道の世界へいってしまった。多くの子供たちは、「見立て」の名人。それ […]
43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
今まで誰も聴いたことがない、斬新な講義が行われた。 43花入伝式で行われた、穂積晴明方源による特別講義「イメージと編集工学」は、デザインを入り口に編集工学を語るという方法はもちろん、具体例で掴み、縦横無尽に展開し、編 […]
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2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テ […]
花伝所では期を全うした指導陣に毎期、本(花伝選書)が贈られる。41[花]はISIS co-missionのアドバイザリーボードメンバーでもある、大澤真幸氏の『資本主義の〈その先〉へ』が選ばれた。【一冊一印】では、選書のど […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。