泡立つ九天―本日のテンキ譚

2022/05/08(日)08:54
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 毎晩日付が変わる頃、九天玄氣組(以下九天)のラウンジにぷくっと泡が立つ。投稿しているのは飛永卓哉(38破/福岡)、2022年1月1日から欠かさず届け続ける「本日のテンキ」である。
 テンキは天気と転記の意味を持つ。九州にゆかりのある本や千夜千冊などのインターネット情報から短いセンテンスを抜き書きして毎日ラウンジにアップする試みだ。

 昨年12月30日、九天年賀受け取り時の組長 中野由紀昌との会話がきっかけだった。時節柄新年の手帳やカレンダーの話となり、「日めくりのひとこととか面白いですよね。松岡修造日めくりカレンダーなんかもあったけど、九天版があったら買いますよ」と口に出してしまった飛永に、中野はすかさず言った。「じゃあ、飛永さんがやってよ」。3カ月交代とかもいいですよねと保険をかけてみたが、「いやいや、1年やるから見えてくる風景があるでしょ」ときっぱり手渡された。翌々日の元旦から「本日のテンキ」はスタートした。

 

2022年1月1日「本日のテンキ」

  遠く胡塵を避けて海東に来たり
  凛然 節出す 魯連の雄
  忠を励まし義に仗(よ)るは 仁人の事
  利に就き安きを求むるは 衆俗同じ
  昔日名題す 九天の上
  多年身は落つ 四辺の中
  鵬程(ほうてい)好去し 恢復を図る
  舟楫(しゅうしゅう)今乗ず 万里の風


 ー松岡正剛の千夜千冊 1157夜ー
  「九州水軍国家の興亡」武光誠
  学習研究社 1990年
  URL:https://1000ya.isis.ne.jp/1157.html


 九天の皆さま
  明けましておめでとうございます。
  本年もどうぞよろしくお願いします。

 

  本日のテンキ、始まりはここから。
  こんな感じで続けていきます。

 最初は連想方式でつなげていったが、そればかりでは面白くない。思いついてやってみた九州ゆかりの万葉歌と現代の音楽の歌合せはハードルが高かった。徐々に届き始めた組員からのコメントやZoomを使って展開中の“番組”で気になったことに乗っかることを覚えた。
 「転機だったのは、三苫さんが紹介してくれた千夜千冊『墨子』『中国遊侠史』でした」。侠をテーマにした「侠のテンキ」は10回続けた。侠っぽくない飛永であるが、続けるうちに「オレ、こういう世界が好きなんだ」と気づいたという。選んだ本や組員が発する情報とのインタースコアによって、飛永も変化している。

 

  
 校長から贈られた色紙は「雲仙る」。2021年の年賀企画では夢野久作を擬いた飛永。

 

 本の読み方も変わった。基本は一日一冊、通勤時に当たりをつけて読む。「目次を読むようになりました。冒頭とあとがきもさっと見て、狙いを定めて抜き出します。九州フィルターを意識して言葉を探しています」。テンキ執筆という必要に迫られて編み出した読書法は、名づけるなら「狙読」または「ゴルゴ読み」だ。図書館でまとめて本を借りる時にもゴルゴ読みが活きる。

 「本日のテンキ」は、情報の出入りを活性化し、飛永の日常も変えた。これを題材にしたアワード企画も始まり、九天と九州の編集は一層の泡立ちを見せている。

  • 石井梨香

    編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。