「アンビバレントな’感’の行方」エディトリアル・レポートvol.2【照応篇】

2022/05/04(水)13:18
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 問いに始まる、エディターシップ・トライアル2022春の『編集力チェック』。一つめの質問「すきなものを3つ挙げてください」には全114名342個の数奇が寄せられました。アナロジカルな分析に挑んだのは48[守]師範代と師範による混成プロジェクトチームです。『二軸四方』の型を使って、社会のいま・兆しに注目しました。
 自動車会社の戦略・企画部門に勤める秦祐也師範代(48[守]M型スピリッツ教室)による見立てに表象されたのは、4つの象限に9つの文字。潜んだ知覚を呼び醒ます、しなやかなストラテジストぶりに瞠目です。


 社会の「感」は何を欲し、どこへ向かうのか。編集的分析プロセスとともにレポートする。

   安・憩・音・遊・思・欲・身体・閃・未知・物語・・

 114名の回答に身を委ね「感」を凝縮した手元メモ。これを手がかりに、俯瞰の型、『二軸四方型』の2軸を探る。軸の設定はアナリストの見せ場の一つである。回答のどの側面に光を当てるか見方が試されるからだ。編集学校という『地』から「3A」を軸を持ち込むこととした。考え、想像する[Abduction]と、何かに五感や心を動かされる[Affordance]を両極とする一つめの軸を据えた。

   x軸:Abduction ー Affordance

対するy軸は、x軸と直交し回答を広くマッピングできそうな軸を仮置きして先に進む。
        y軸:閉 ー 開


 ここから、回答ひとつひとつに向き合い、2軸の平面に配置していく。定性的な軸は主観も交えたスコアリングにならざるを得ない。解釈の試行錯誤を繰り返しながら、当初設定した軸の意味を揺らし、対比を際立たせる意味を重ね読み込んだ。

    x軸:Abduction/思索 ー Affordance/身体性
     y軸:Nostalgia/閉 ー Unknown/開

 マッピングが進むと、近づいた回答群ごとに手触りの異なる「感」が浮かび上がる。漢字一字で見立ててラベリングし、色合いの変化を俯瞰できるマップとした。

 このマップから、「いま」を読み解いていく。
 右側[Affordance/身体性]に回答が偏った。これは、明けそうで明けないコロナ・パンデミックという社会の『地』への反発と読み取れる。身体いっぱいに感じる数寄を希求する気持ちのあらわれである。これが最も強くあらわれているのは右上の[Unknown/開]が掛け合わされた象限。

  031-1)なんできちゃったのだろうと後悔を感じつつ
       苦しい山登りの中で頂上に辿り着いた瞬間
  071-1)ムシムシと暑い夏、埃っぽい多言語の会話を耳に、渋谷の
      ビアバー「ミッケラー」の縁側で飲むクラフトビール

 『地と図』の対比に鮮やかな「感」が弾ける。五感で感じる解放感、爽快感、快さ。当たり前になりつつある窮屈さから、刺激を欲して外に向かう衝動が溢れている。一方、右下の象限にも多くの回答が集まった。誰かを、なにかをそっと抱きしめるような繊細さや、愛おしむ気持ち。

  011-1)凪いだ海面に反射する夕方の
     藍色からオレンジのグラデーション
  080-1)耳がぴんと立っていて、しっぽがくるんと巻いた柴犬が、
     自分の飼い主を心底信頼した様子で、たったったと歩いている様

 世界が不穏な情勢に突き進んでいった回答期間だった。心は身近なひとに、馴染みのものに寄り添っておきたい。そんな切実さが滲み出た。身を置く場は外へ外へと。でも、心は近しいものに触れていたい。ふたつの思いの間で揺れるような、アンビバレントな「いま」が浮かび上がった。「まだ知らない懐かしい場所」を求めているかのようだ。新たなトポフィリアに出会うために、一歩を踏み出す一年になるだろう。

 

(分析・図解・文/師範代秦祐也)

◆◆エディトリアル・レポート2022春 シリーズ◆◆

”分ける”の極意。エディトリアル・レポートvol.1【感知篇】

「わたしを擬くAIに編集される私」エディトリアル・レポートvol.3【共遊篇】

  • 平野しのぶ

    編集的先達:スーザン・ソンタグ
    今日は石垣、明日はタイ、昨日は香港、お次はシンガポール。日夜、世界の空を飛び回る感ビジネスレディ。いかなるロールに挑んでも、どっしり肝が座っている。断捨離を料理シーンに活かすべくフードロスの転換ビジネスを考案中。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。