2004年オリベ、切らずにつなぐまでの3日間

2019/12/15(日)09:52
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 男性は生涯学習センターの受講生で日本文化に一家言持っていた。「私の回答に文句をつけるとは! 再回答は拒否する」と抗議し、師範代と教室を凍りつかせた。

 

 オリベ編集学校であった事件のひとコマだ。2003年~2004年に岐阜県生涯学習センターとの異色のコラボレーションで実現したこのイベント講座は、1期5教室、2期6教室体制だった。岐阜県下からの受講生が主で、本校に多い仕事のスキルアップをめざす人より、豊かなくらしを求める知的好奇心の強い人が多かった。

 

 年配者の割合が高いのも特徴だった。先のモノ申す男性も60代。当時、インターネットの普及率は60%を突破したばかり。とりわけ年齢が上がるほど普及率は低く、60歳代は39%だった。そんな中、メールのみでのやりとりという新奇な環境、聞きなれないカタカナ用語の多いお題文…。回答の行間に浮かびあがる憂悶から、高年者のハンデが窺い知れた。

 

 師範代もよく粘った。はじめは頭に血がのぼって、「彼とは水掛け論になるだけ。教室全体のためにも、今後、再指南はしません」と強硬姿勢をとっていた。しかし、事務局と師範代仲間からの共感と励まし、アドバイスが一昼夜続き、「切るのではなく、つなぐ指南」をと考え直す。

 

 ―指南を否定ととられるのは自分の書き方が至らなかったせいです。編集稽古に正解がないのは、試験問題のような正解がないだけで、指南には基準があり、好き勝手に書いているものではありません。そうした説明を十分にするべきでした―。
 お詫びとともに送信されたメールの後、男性から再回答が届いた。抗議のメールから3日が経っていた。

 

 花伝所ができる2年前の出来事だ。幾多の通じあおうとする人たちが方法を繋いできた。

 

リアル稽古ではポストイット編集術で盛り上がった

 

  • 吉野陽子

    編集的先達:今井むつみ。編集学校4期入門以来、ORIBE編集学校や奈良プロジェクトなど、18年イシスに携わりつづける。野嶋師範とならぶ編集的図解の女王。子ども俳句にいまは夢中。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。