〈突破者が書く!第8弾〉やわらかで温かく見守り続ける【78感門】(中村裕美)

2022/04/03(日)18:00
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 師範は教室には見せない師範代の姿を知っている。だから、第78回感門之盟の卒門式と突破式で、学衆達に言葉を送る師範代を見守る目はやわらかで温かい。稽古期間は約4ヶ月。暑さが残り扇風機が手放せない季節から、雪がちらつき炬燵から出られない季節へ変わる。この長期間、フラットでいることは難しい。師範代にも色々なことが起きる。
 ある師範代は仕事との時間編集がうまくいかず、指南が遅れがちになった。それを取り戻そうと「得番録のコメントをやめようと思う」と話すと、いつもは「それでいいと思う」と丸ごと包んでくれる師範に「それだけはやめよう」と諭される。ある師範代は「教室に回答は届くが、その前の雑談のマクラがない」と不足を漏らす。師範はすかさずそれを拾い上げ、「マクラ投げ大会をしよう!」と差し入れを行う。そしてある師範代は最愛の人を亡くす。多くを語ると学衆を心配させてしまう、と師範に事情を話し、少しの間教室を抜けた。指南が止んだ静かな教室に現れた師範は師範代の意思をくみとり、多くは語らず、しかし学衆の稽古の足止めをしないよう言葉を残した。

 学衆は、一度は誰でも考える。師範代はいつ寝ているんだろうと。「みなさんの回答が面白くて」なんて明るく返すが、立ち止まりたくなる瞬間があったであろう。不安や不足を露呈しすぎると学衆達にも不安が広がってしまう、と師範代達は水面下でバタつく足を見せないのだ。しかし師範は教室には見せない師範代の姿を知っている。師範代を、そして教室を陰でそっと支えている。

「畑本だから仕方ないよね」

「いつもトンネリアン教室」の師範代畑本に感門の言葉を送る際、思わず目を潤ませた師範景山にかけた校長の言葉だ。
 そう、ずっと見守ってきた師範代が無事感門を迎えたとき、涙してしまうことは仕方がないのだ。

 

文:中村裕美(47[破]泉カミーノ教室)

編集:師範代 山口イズミ、師範 新井陽大(47[破]泉カミーノ教室)

撮影:中村裕美、上杉公志


▼番記者梅澤コメント

 
読ませる文章はなにが決め手でしょうか。多くの人は、「どう書くか」に腐心します。でもじつはそれより大切なのは「なにを書くか」です。突破者が感門之盟から記事をハンティングするというこの企画、口火を切ったのは泉カミーノ教室の中村さんでした。中村さんは、勢いもあれば粘りもある。教室中を驚かせなが持ち込んだ2本目の記事がこちらです。イズミ師範代は手放しで称賛しました。「筆力もさることながら、人々を見つめる目、あいだを見るチカラがある」「ネタをハントする目があります」
まさに中村さんは、「なにを書くか」というネタ選びでピカイチの審美眼を見せました。感門之盟に伏流のように流れていた師範と師範代の信頼関係を描いたのです。マクラ投げを提案された山本ユキ師範代の挨拶中、男泣きを堪えた角山ジャイアン師範。秦祐也師範代を我が子のように慈しむ嶋本昌子師範の顔つき。畑本ヒロノブ師範代をまえに声を詰まらせた景山和浩師範の涙。花伝所コーナーで牛山惠子師範代が明かした、マダム池澤師範の懐かしい愛の歌。そして壮絶な喪失のなか指南を進めたイズミ師範代の矜持。記事だけでなく写真でも、感情溢れる瞬間を切り取ってくださいました。

この記事を読んで、立ち止まらない師範代に励まされた学衆、そして、予想外の出来事が身に降りかかりつつも指南をまっとうしたこれまでの師範代、さらには師範代を襖の奥で支え導きつづけたすべての師範・番匠・学匠が、よくぞ書いてくれたと頷いていることでしょう。中村さんは、師範代の泣き顔という教室に《ないもの》を、感門之盟で見つけました。師範の美しい涙とともに、全師範代をねぎらう名文がエディストに誕生しました。
  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。