この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

未知奥連(みちのくれん)の弦主・森由佳はジュンク堂仙台TR店をぐるーっと一周していた。弦主の生業は、銀行の内勤だ。営業経験はない。落語家や漫画『ONE PIECE』(尾田栄一郎、集英社)のキャラクターが印刷されたレジ横のチラシを横目にスタッフの様子を窺う。”はじめてのおつかい”ならぬ”はじめての置きチラシ”のゴングが鳴る。
スマイル、スマイル…と頭の中でつぶやきながらレジの女性に近づき、エディットツアースペシャル(ETS)のチラシを見せる。にこやかな対応にホッとした束の間、代わって副店長が現れた。「講演はNG、本に関することならOK」。これが副店長の提示した置きチラシの基準だった。森はあくまで喰い下がる。「編集」というキーワードを武器に、ついに美術棚の一隅を勝ちとった。
仙台では、古書店でもETSのチラシを手に取ることができる。アート、絵本、文学を中心に選書された古書とカフェが半々のスペースで隣り合う火星の庭だ。『遊』のバックナンバーも時々見かける。それから、出版社荒蝦夷がこの春オープンした古本あらえみし。編集者である店主が資料として買い集めた古本と、地方出版社の新刊が喜々として雑居している。
こうして未知奥連弦主の”はじチラ”は無事に幕を下ろした。されど、撒き散らしてこそのチラシだ。寝ても覚めても四六時中、森の都にひそむ想像力に目を凝らし、散らして集め、集めて結ぶ。2019年8月2日現在、申し込みは4名!
林 愛
編集的先達:山田詠美。日本語教師として香港に滞在経験もあるエディストライター。いまは主婦として、1歳の娘を編集工学的に観察することが日課になっている。千離衆、未知奥連所属。
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。