おしゃべり病理医 編集ノート – 多読ジム「問診表」の極意

2019/11/22(金)11:06
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  病理医として、日々の研鑽と人材育成のための内外での研修。

  二児の母として、日々の生活と家事と教育と団欒の充実。

  火元組として、日々の編集工学実践と研究と指導の錬磨。

  それらが渾然一体となって、インタースコアする

  「編集工学×医療×母」エッセイ。


 
 問診票はなぜあるのか。卓越した臨床推論のチカラを持つ臨床医であれば問診票なんて必要ないのだが、問診票には大きくふたつの利点がある。ひとつは重症度の判定ができること。もうひとつは症状の要約と特徴検出である。
 
 重症度の判定のみにフォーカスを置いたものが救急の現場におけるトリアージである。特に災害時は、患者を緑・黄・赤と色分けすることで、重症で一刻も早く治療が必要な患者を優先し、限られた医療資源を投入する。
 症状の要約と特徴検出は、まさにカリカチュアであり、問診票の中に、疾患を類推するための重要キーワードを散りばめておいて、疾患の特徴を際立たせる。これで診察の効率化を図る。
 
 イシス編集学校の新講座「多読ジム」の読書問診票はかなりよくできている。読書とは何なのかを熟知した多読達人ならではの編集が施されている。過不足ない10個の問いで、読書における具合の悪さの特徴が浮き出てくる。不思議なことに、すべての問いにどう答えようと、トリアージ的には全員「赤=緊急処置を要する状態」となる。「今すぐ多読ジムに申し込みを」という処方箋までついてきて、医者いらずなのである。トレーニング前の優れたメディカルチェックだ。
 
 「ジム」と聞くと、筋肉むきむきな印象を抱きがちだし、ハードなトレーニングが待っているように思うかもしれないが、決してそんなことはない。インストラクター役の「冊師」のサポートを受けつつ、自分のペースである程度進められる。あまりに進捗が遅れて怠けていれば、サッショーこと、大音さんから肩を叩かれるくらいである。
 
 読書にまつわる筋肉も神経も少しずつ鍛えていくものである。速筋、遅筋と様々な多読筋があるから、鍛え方も異なるし、筋肉に指令を出す神経は、日々読み方に応じた刺激を与えてあげることで鋭敏になっていく。
 問診票には、「読んでいるとだんだん集中力が切れる」という項目があるがこれに該当する方は、明らかに読書インナーマッスルが弱いことを意味する。人体の体幹を支えているのは、背骨の両側からお腹の奥深いところを骨盤に向かって斜めに走る腸腰筋である。読書腸腰筋が細いと、読書継続力も忍耐力も集中力も弱まる。「新聞・雑誌を読むときと本を読むときの区別ができていない」なら、それは読書筋を使い分ける運動神経が鈍いということ。ひとつひとつの筋肉の使い方を意識していくトレーニングが必要であろう。
 
 「多読ジム」は、「身体的な読書」を大事にしている。というか、読書はカラダでするものだ。頭じゃない。自分の読み方のクセは、どんな経験によって身についたものなのか。いったいどこで集中力が切れて、何に惹かれてハマるのか。多読ジムでは、自分の読書の身体感覚を知ることから始まり、その後、少しずつ明かされていく読書メソッドを試しながら、「読書カラダ」を鍛えるプログラムが用意されている。
 
 「読む」という行為そのものはとても個人的なものである。どんな本を読んでいるか?という質問はよくしたりされたりするが、どんなふうに本を読んでいるかという質問はなかなかできないし、答えるのも難しい。
 
 そういう状況の中で満を持して登場したのが新しい読書講座「多読ジム」である。校長は、「読書は交際だ」と断言する。著者とのつきあい、そして、ジムに集まったメンバーとの共読もぜひ楽しみつつ、素敵な読書カラダを手に入れよう。
 
 はい。あなたの読書トリアージも「赤」ですよ。今すぐポチッとしましょう。
 
 
「読書運動神経系統」
 
 読書はカラダでするもの。読む行為には、視覚・嗅覚・聴覚・触覚といった感覚の連動が必ず伴い、各々の感覚神経回路を経由し、脳に刺激が送られ、イメージと言葉をインタースコアさせながらの思考が働く。同時に、眼球の動き、ページをめくる手の動きに加えて、呼吸や姿勢の保持など、運動神経を経由した脳から筋肉への出力も起こっており、読書するという行為が継続されることになる。運動神経・感覚神経いずれも途中でシナプスを介し、神経を通る電気刺激が化学物質に変換される。ここでの時間のズレ、つまり「間」において、3Aが働く。
  • 小倉加奈子

    編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。