この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

ふつふつ、グツグツ、ぐわんぐわん…。物語講座が音を立てている。
2021年12月4日(土)[遊]物語講座14綴のリアル稽古「蒐譚場(しゅうたんば)」が行われた。いつもはオンラインで編集稽古をしているが、この日だけは違う。叢衆(学衆)と師範代、師範などの指導陣が一堂に会してリアルで編集稽古をする、[遊]講座ならではの1日だ。
「久々の本楼開催。zoomの人も一緒に混じりあいながら充実の1日にしましょう。」
昨年は、新型コロナウイルスの影響で完全リモート開催だったが、今回はリアルとリモートのハイブリット開催。開会メッセージで叢衆に呼びかける木村久美子月匠の顔もほころぶ。
「松岡校長は『物語は編集である』『編集は物語である』『物語する、と、編集するは同義だよ』と常々話しています。物語にとって大事な連想編集のことを念頭に置いて、この蒐譚場の1日を『遊(ゆう)』してください。」
木村月匠のこの言葉から蒐譚場がはじまった。
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「物語とは何かを一言で語ると、それは『力』です。人が感動する意味を考えてください。そして未知の領域、神の領域に向かうのが『遊』。『遊』は完全な自由を目指していきます」と、立ち上げから講座と併走してきた赤羽綴師は、自身の見方をしめして叢衆の背中を押した。
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残念ながら欠席となった小濱創師はメッセージ動画での登場となったが、さらに叢衆の編集エンジンを回していこうと試みた。
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全教室を見守る小濱創師は、その場に居合わせることができないからこそ、各師範代を通して叢衆に語りかけたのだった。
「植田師範代は叢衆時代からワールドモデルの設定が上手く、この得意手が今の文叢の運営にも活かされています。植田師範代がつくるワールドモデルの中で、叢衆は『たくさんのわたし』をもっと広げ深めてほしいです。」
「裏谷師範代は前綴に続いての師範代ということで、カット編集術がパワーアップしています。指南の入るタイミング、手渡す強さ、順番が絶妙です。この波に乗れていない人はもったいない!何よりもこれに乗ってください。」
「高橋師範代は物語に対する知識量もものすごいですが、何よりキャラクターの妙です。叢衆それぞれのキャラクター、物語の知識に応じたキャラクターをもった手渡しです。みなさんは、このキャラクターの中にグッと入りこんでください。」
「後田師範代は物語の語り部と言われていますが、素晴らしいのは語る中身ではなく緩急です。この緩急が文叢の場の大きな力になっています。この波に乗って深いところに進んでいますが、少し立ち止まってみて振り返ることでもっと物語の闇が深くなるはずです。」
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師範代と共に文叢(教室)に向かい合ってきた師範たちからも言葉があふれる。
お題からやってくる偶然や外部を取り込むことで物語ができる。お題は未知と出会う扉ということを意識してほしい、大きな意味で物語編集の意味を考えてほしいと、物語に向き合う叢衆を後押しする言葉をつないだ。
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約2か月、文叢内で編集稽古を交わしている師範代は伝えたいことが溢れかえっていた。
稽古が途切れがちな叢衆にカメラ目線で呼びかけたり、つくりあげている物語を壊しにかかる指南の意図を表沙汰にしたり、書けなくてもボロボロでも良いから、書こうと思ったものに対して持ったモヤモヤを大事にしてほしいと語ったり…。
編集熱あふれる本楼で、それぞれが紡ぎ出された言葉は叢衆を揺さぶった。蒐譚場の振り返りやその後の稽古でも「参加してよかった」「会えてうれしかった」「物語の意義を知れた」など渦が巻き起こり、あちらこちらで共振している。
叢衆には、今週末、改編されたお題「トリガー・クエスト」の物語を書き上げが待っている。さらに勢いづいた14綴。編集方法の集大成といえる物語編集で、どのような熟成が起きるのか。叢衆自身の、そしてかれらの発酵はまだまだ続く。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。