イシスの師範が千夜された?! 松岡正剛のサプライズとは【千夜千冊1787夜】

2021/11/17(水)23:52
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深谷もと佳は飛び起きた。深夜3時19分、所長田中晶子が36[花]ラボに現れたのだ。入伝生・師範全員に、この時間に通達するなどただごとではない。リンク先を開いた深谷は、予想外の事態に身体の震えが止まらなくなった。「これは、まるで『週刊花目付』についての千夜じゃないか」 第1787夜のことである。

数日前から、千夜千冊編集部は口をつぐんでいた。次回の千夜を尋ねると、ある者はタバコを悠然と吸いはじめ、ある者は突然用事を思い出した。イシスの師範を千夜するというかつてない試みは、当の本人・深谷にさえ一切知らされることのなかった、松岡正剛からの唐突な贈り物であった。

 

翌朝、もうひとりの花目付 林朝恵がはしゃいでいた。「千夜事件:モトカ・ケイパビリティ」と題し、「FMサスーン教室のFMは、Fukaya Motokaでもあるし、Fukaya & Matsuokaではないか」と浮かれる。校長の散髪シーンも動画で収めた林は、深谷と36[守]師範代同期であり、39[守]で初師範を担当した戦友である。深谷とともに式目レクチャーを行った師範中村麻人は「『複問・複感・複応・複答・複返』『半開複々環構造』などのキーワードが、花の秘をひらいていきそう」と花伝所の奥義への手がかりに食いついた。今期36[花]は、5Mのうちの4番目、M4:Mangamentの急坂にさしかかっている。田中は今こそ入伝生に読んでもらいたいと『ネガティブ・ケイパビリティ』を読み返し、「ハンカイフクフクカンコーゾーの36花」とほくそ笑む。

 

さまざまな祝砲が鳴るなか、深谷は昼すぎに姿を見せた。深谷が「ネガティブ・ケイパビリティ」なる言葉と出会ったのは、今から3年まえ、花伝師範2期目となる31[花]のころだった。花伝式目M2:Modeでは、師範代の基本モードとしての《受容》を徹底して学ぶ。深谷は、相互編集の土壌となる《受容》についての理解を深めるべく、臨床心理系の知見を渉猟していたという。アメリカの臨床心理学者のカール・ロジャーズや、身体知の専門家である諏訪正樹の論考を読むうちに目に留まったのがこのワードだった。そして帚木蓬生の著作を経由し、ジョン・キーツに着地。

詩人はアイデンティティをもとめながらも至らず、

代わりに何か他の物体を満たす

深谷は千夜にも引かれたこのフレーズに、ネガティブ・ケイパビリティの概念が昇華されていると語る。これは世阿弥の思想にも通ずると読み、33[花]での式目改編に大きく反映されることとなった。とくに現行のM2-1解説、M2-2解説にその痕跡は色濃い。

 

美容師深谷のアトリエは、小田原城の堀から徒歩30秒の一角にある。謙信・信玄の攻略をも拒んだ難攻不落の小田原城、その白い天守閣を望んで深谷はつぶやく。「あの千夜は、『花伝所』『花伝式目』、ひいては『未だ見ぬNEXT ISIS』への千夜だと思います」 
イシスが編集工学2.0を担うために。松岡からのサプライズは、DANZEN ISISへの着火剤となった。

 


※深谷もと佳をもっと知るなら

記事一覧:https://edist.isis.ne.jp/author/fukaya/


●千夜千冊にも取り上げられた人気連載「週刊花目付」

 [週刊花目付#20] 編集的振動状態を励起せよ

 最新#23では、自身のアトリエから動画メッセージも届ける。

 

●エディスト初の音声コンテンツ「ラジオエディスト」

 企画・インタビュー・ナレーション・編集、ジングルの音声まで深谷が手掛け、イシスの次なる20年を”志向”。

 [ISIS for NEXT20#1][目次] 局長佐々木千佳の膝枕力―年末特番!ラジオエディスト音声配信―

 [ISIS for NEXT20#2][序] 林頭吉村堅樹の志向力―年始スペシャル音声配信―

 

●花伝所のレクチャーを特別公開

 32[花]花伝講義録「推感リバースエンジニアリング」

 

●「ジャイアン」の名付け親であり、唯一のライバルとして

 ジャイアンの教室名 ――46[守]新師範代登板記 ♯4(角山祥道)

 

●1787夜でのレクチャー内容はこちらから

 花伝所出ると優しくなれる? 写真でわかる「イシス式指南術入門」開催 【36[花]受付開始】(梅澤奈央)

 

●エディスト公開当初から連載された、ヘアデザインの現場での編集問答

 髪棚の三冊 vol.1-1「たくさんの私」と「なめらかな自分」

 

アイキャッチ画像は千夜千冊第1787夜『ネガティブ・ケイパビリティ』より。(撮影:後藤由加里)

深谷は、自分の理想のワークスタイルは「鶴の恩返し」の鶴であり、なるべく人前で見せたくはないとためらった。掲載写真は「私のワークスタイルがありありと切り取られている」とコメント。

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。