編集かあさん家の千夜千冊『資本主義問題』

2021/08/10(火)09:43
img NESTedit

 編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。


 蚊とコウモリ

 長女(8)は蚊が大嫌いだ。「世の中から蚊がいなくなればいいのに。蚊なんて必要ない」と言いだした。長男(13)が「蚊はコウモリの餌になってるかもしれない」というと、「コウモリには生きててほしい。そう考えると無くなっていいものなんてないのかな」。
夏休みだから、ゆっくり考える。

 

 駅前の本屋さんで新しい千夜千冊エディション『資本主義問題』を買う。長男(13)は、心待ちにしていた星空写真家KAGAYAさんの『Starry Nights』を受け取る。「重い。大きい。10年間の集大成らしい」。わくわくしながら帰る。

 夜、落ち着いてから、『資本主義問題』を出した。表紙、よく見ると古いお札、聖徳太子だというと「とっくに気がついてたけど」。最近の口癖だと思いながらも、なぜ知ってるのか尋ねてみる。
「少し前に偽札事件があって、今でも聖徳太子まで使えるってニュースで見たから」。
 予想外の答えにおどろきつつ、今度の字紋はなんでしょうとクイズを出してみると「円かな」。惜しい。「じゃあ、万?」
 最近、読める漢字がぐっと増えた長女も吸い寄せられるようにやってくる。
 答えは「金(きん)です」と答えながら、おカネっていう意味かもしれないけどと付け足す。金。一年生で習う漢字だが、なぜ2つの読み方があるのか長女にもわかるように言葉にするのは簡単じゃないと思う。

 

 

 

 それホントに要る?

 口絵を開く。
「本物の一万円札だ」。子どもたち、少し色めきたつ。
「なぜ、おりられないのか」と帯にある。
 長男が「資本主義やめたら民主主義じゃなくなりそう。ちょっと怖い」という。13歳のシソーラスでも、資本主義と民主主義がつながっている。
「社会主義とか共産主義とかになると物資が不足しそう。強制収容所とか秘密警察を連想してしまう」。なるほど。このところ、NHKの『映像の世紀』を集中的に見ているのが連想に表れているのか。
 前口上と追伸と目次を読んで、一番最後の『アンチ資本主義宣言』に飛ぶ。民主主義を保ったまま資本主義をなんとかする方法がいくつも検討されてるよ、相当の難問だけど。まずはそれだけ伝える。

 

 次の日のお昼、マクドナルドに行く。長女がポテトを食べながら、「世の中から無くしていいもの思いついた。広告じゃないかな」と話し始めた。どうして? 「だって、CMって広告でしょう。テレビを見ている時に急にCMが入ると集中できない。パソコンでも。広告見ておもちゃが欲しいなって言っても、それホントに要る?っておかあさんに言われるし」

 言葉は、置かれている「地」によってはかなり疑ってかからなきゃいけない。特に広告は半分無視するぐらいにならないと。そんなふうに教えるのは10歳を過ぎてからにしたいけれど、小学校2年生から1人1台のパソコンを使った学習が始める今、そうも言ってられなくなってきた。資本主義は容赦がない。しかも、それは子どもたちが望んだものというわけではないのだ。

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

  • 編集かあさんvol.54「おおきなかぶ」の舞台裏

    「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。 […]

  • 【Archive】編集かあさんコレクション「月日星々」2025/4/25更新

    「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る、編集かあさんシリーズ。 庭で、街で、部屋で、本棚の前で、 子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。 2024年10月29日更新 【Arc […]

  • 編集かあさんvol.53 社会の縁側で飛び跳ねる【82感門】DAY2

      「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩み […]

  • 編集かあさんvol.52 喧嘩するならアナキズム【82感門】DAY1

      「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩み […]

  • 【追悼・松岡正剛】「たくさんの生きものと遊んでください。」

    校長に本を贈る   松岡正剛校長に本を贈ったことがある。言い出したのは当時小学校4年生だった長男である。  学校に行けないためにありあまる時間を、遊ぶこと、中でも植物を育てることと、ゲッチョ先生こと盛口満さんの本を読む […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。