【このエディションフェアがすごい!16】ジュンク堂書店 難波店(大阪市)

2021/07/01(木)18:31
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 「千夜千冊エディション 知祭り」の火は大阪でも熱く燃え始めている。先陣を切ったのはジュンク堂書店難波店だ。

 地下鉄とJRが直結し、ホテルが入る高層ビルの3階。1フロア約1100坪の売り場を持つ難波店は、大阪有数の繁華街ミナミの真ん中に位置する。横を阪神高速道路が走り、向かいにはガラスのピラミッドが印象的な湊町リバープレイス。大阪っぽい雑然とした街並みに囲まれている。

 

ジュンク堂難波店が入るマルイト難波ビル

 

ジュンク堂難波店の向かいにはピラミッド型のオブジェが

 

 難波店のエディションフェア「すごい!」ポイントは、店長の福嶋聡(あきら)さんの手づくりパネルだ。「最も共感した1冊」という『本から本へ』から、印象に残った5つの文章を抜き出し、壁に貼っている。ことばを展示することが、その本をもっともPRする方法なのだ。ジュンク堂に入って40年近く。読書論や出版論は興味を持って読んできたというが、「いまこれだけのことを書き、話すことができる人はほかにいない」と松岡正剛を評価する。

 

ポスターを中心に壁にはパネルが貼ってある

 

 壁のポスターやパネルの下には20冊のエディションが並べられている

 


 インターネットやブロードバンドが拡張すればするほど、時代はコンテンツを要求することになる。そのコンテンツは放っておけばタレ流しのゴミである。編集されていなければ何も使えない。コンテンツの編集技術はまさに書物をどうつくるかという技術と不可分だ。その書物編集技術のなかに、世界をどのようなポータルやディレクトリーにするかという技術もすべて内蔵されている。

(『書物の出現』)


 本は読むものである。本を書くもの、書かれたものと思っている諸君が多いかもしれないが、そうではない。読めば、書くこと以上の思索が動く。本は書くことを含めて、読むものなのである。               

(『江戸の読書会』)


 

「知祭り」ポスターの前で『本から本へ』を手にする福嶋店長

 


 ウェブにおいてはサイトの〝そこ〟を覗き見ているのはユーザーである。しかし文学作品ではユーザー以前に、〝そこ〟に春水や漱石が投じたキャラクター(登場人物)がいる。この、読者と登場人物とが二重に見ている江戸や東京を、現在のわれわれがまた三重目に見ることになる。

(『近代読者の成立』)


 

 


 書物は、それが書物であるということによって、記憶術そのものだった。           

(『記憶術と書物』より)


 

 


 本は何でも運べる舟であり、たいていのコンテンツを盛り付けられる器で、かつまた知識と情報の相場でもあって、誰もが好器に着たり脱いだりできる着脱自在な方形の衣裳なのである。

(追伸より)


 

 

 やや奥まった人文書コーナーの壁を利用したフェアは福嶋店長の作戦でもある。「平台だとポップが目立たないが、壁だとポップやパネルを自由に貼ることができる。目にも入りやすいんです」。ホワイトボードのように自由に編集された壁は、整然と並ぶ書架と対をなしている。たしかに遠くからみても松岡正剛ポスターは目を引く。

 

 

離れていても、松岡正剛の視線を感じる

 

 福嶋店長は東京・池袋本店に勤めていた2003年、松岡正剛トークセッションを手掛けたことがあるという。「その時に初めてお会いしましたが、松岡さんは本当に声がいいですね。それに語り口も鮮やかでした」。若いころ役者をしていたという店長だから、声や話術に関心が向くのかもしれない。

 

 

 

 フェアコーナーのすぐ横には松岡正剛の著書をそろえた棚がある。福嶋店長はここでもおすすめの2冊を教えてくださった。1冊はドミニク・チェンさんとの共著『謎床』。「対談には、松岡さんは相当な準備、勉強をして臨まれるのだろうなと思いました。こうありたい」。もう1冊は「若いころに読んだ」という『空海の夢』だ。「世界をつくるということは、本を書くことにつながるのでは」と話される。

 

『謎床』と『空海の夢』を手にする福嶋店長

 

 「松岡さんは、あれだけ忙しいのに、これだけの本を読み、仕事をされる。忙しくしているからこそできるんでしょう。わたしも時間がない時の方が逆に色々できると思って、自分を追い込み、無理なスケジュールでも受けるようにしている」。ジュンク堂のPR誌『書標』に、40年近く毎月書評を書き続けている。ウェブに連載を持ち、著書を出す。店内ではトークイベントが開かれる。取材の翌日は「書店とコミュニティ」をテーマに、大学生に向けて特別講義をされた。店長の枠にはまらない活躍の裏には、セイゴオ流の仕事術が生かされている。

 

店内には福嶋店長の著書コーナーもある

 

『仏教の源流』の話から、「意外と売れるんです」と向かった先には『修証義』が並んでいた

 

 福嶋店長みずから手掛ける難波店のフェアは7月20日までを予定しているが、場所を取らない壁のメリットを生かし、延長も考えているという。手書きパネルは、さらに増えるかもしれない。20冊のエディションを彩る、思いのこもった手作りパネルは必見だ。

 

 

写真:木藤良沢

 

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  • 景山和浩

    編集的先達:井上ひさし。日刊スポーツ記者。用意と卒意、機をみた絶妙の助言、安定した活動は師範の師範として手本になっている。その柔和な性格から決して怒らない師範とも言われる。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。