この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

よっしいさん(50代・女性)のご相談:
個人事務所の代表に悩んでいます。スタート時は奥さんだけが手伝っていました。社会経験を積まないまま娘二人も働くようになってから、仕事上家族に対してきちんと指導ができない様子がますますひどくなり、職員たちはあきれ顔です。わたしはそろそろ60歳になるので、フルタイムから退く旨を伝えたら、これまで担当してきたお客様の関与を打ち切ることも考えていると言ってきました。それを苦労して担当してきた当事者であるわたしに話す神経がわかりません。10年ほど前、イシス編集学校をすすめ、守は受講しましたが、編集術がまったく身につかなかったようです。他の職員も体調不良を理由に退職を申し出ています。その奥にある気持ちに思い至らない事務所の代表とその家族にどう対応したらいいでしょうか。
◎
こんにちは。井ノ上シーザーです。
今回からは趣向を変えて、ご相談とサッショーの選本をわたしが橋渡しをいたします。みなさま、よろしくご愛顧をお願いいたします。
今回はセミリタイア間近に、長年勤めた事務所の行く末を気にかけて、もやもやが止まらないよっしいさんに、サッショーがこの一冊を紹介します。
千悩千冊0023夜
幸田文
『おとうと』(新潮文庫)
見かぎることについて書かれたせつない小説。底の底まで気の知れた「きかん気のくせに弱虫」の弟が不良のレッテルを貼られてしまったのは、両親の不和のせいかと姉は悩む。なさぬ仲の因果はもつれ、大波になって押し寄せる。決壊するのは一番弱い堰だ。「かっとのぼせる性質」から肺病へ。不出来で不運な弟に対する客観的な評価と濃い情や使命感がないまぜになるなか、客観を縦糸、情をヨコ糸として「幸田格子」が出来上がったかと思えます。他人さま一家の性格に起因する問題を、勤務先の上司だからという理由で、ご自分の退職後の行く末まで案じてあげるよっしいさんの博愛は、どんなテクスチャーになるでしょうか。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
長年仕えたのですから、「活殺自在」(自分の思うように、自由にふるまうこと)でもいいかもしれません。
「飛ぶ鳥、あとを気にせず」もありですし、他の職員さんとお客を引き連れて、新しい事務所を設立する、という手もあります。編集術としては「地」の大胆な入れ替え、とかになりますね。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。