ああ、それでもジャイアンは歌う――46[守]新師範代登板記 ♯1

2020/10/15(木)20:45
img CASTedit

 10月3日の[守]伝習座を前に、「教室フライヤー」作成の課題が出た。教室名とイシスをインタースコアせよ、という。イシスのジャイアンは吠えた。面白ぇじゃねぇか。ペンを握り、紙に思いをぶつけた。提出は教室名発表の3日後。当然、ダントツの一番乗りである。
 八田英子律師からすぐにメールが届いた。
「リトライください」
 イシスのジャイアンはメドゥーサの首に睨まれた如く固まった。
 師範代になっても再回答とは……。

▲手書きで1時間かけた「ボゲ~」が飛び出す、最初に作ったフライヤー。

 

 ジャイアンにとっての編集学校の歩みは、再回答と共にある。
 まだ「ファーストペンギン」を名乗っていた頃、数々の袈裟切り伝説を持つおかっぱ頭の師範代から、43[破]全体で真っ先に再回答を請われたのは、誰であろうジャイアンである。
 そのあとも、一番に飛び込んではアザラシ師範代に食いちぎられるという日々が続いた。指南の書き出しは「かわいいペンギンちゃん」なのだが、そのくせガブリとやるのである。悔し紛れに、嫌味や皮肉を回答にしのばせたが、アザラシ師範代はそれらも丸ごと飲み込んだ。
 関西育ちの師範代はケラケラと言い放った。
「同じ稽古なら、回数やったほうがお得でっせ」

 

 回数? 初めて再回答を送った際の指南を読み返してみた。「嬉しいピンポンに、早速打ち返しますー」とある。
 ああそうか。再回答は「一緒にラリーしようよ」というお誘いだったのだ。ボールは常にこちら側にあった。打ったら必ず返してくれる。打たなければ戻ってこない。なんだ、だったらたくさん打ったほうが楽しいじゃん。気づくとジャイアンは、自主的に再回答を出すようになっていた。

 

 師範代にはいつなるのか。花伝所を出ればそれでいいのか。そうではない。そうか、師範代もまた、稽古なのか。ああ、日々是稽古。フライヤーのリトライ依頼も、ラリーの誘いだったのだ。もっと楽しめるよね、と。固まる必要なんてなかった。大いに遊べばいいのだ。

 

 ジャイアンの書斎には、『千夜千冊エディション』と『ドラえもん』が全巻揃っている。いちばん近くの本を手に取った。もちろん『ドラえもん』である。

 

《なやんでいるひまに、一つでもやりなよ》

 

 ドラえもんまで背中を押しているではないか。
 続いて『編集力』を手に取る。悩んだらこれに限る。
 あるページで手が止まった。ああ、この中にジャイアンがいるではないか!
 フライヤーの再制作にかかる。アイデアをノートに書き付け、何度も試してみる。ジャイアンは猫を撫でるのも忘れ歌い続けた。

▲再提出したフライヤー。ロジェ・カイヨワの『斜線』の頁が開いてある。


 ジャイアンはめげずに幾度も声を張り上げる。遠くに。ナナメに。それがジャイアンの矜持である。

(2020.10.15)

 

◆バックナンバー

ジャイアン、恋文を請い願う――46[守]新師範代登板記 ♯2
ジャイアンとコップ――46[守]新師範代登板記 ♯3
ジャイアンの教室名 ――46[守]新師範代登板記 ♯4
ジャイアンは教室とともに――46[守]新師範代登板記 ♯5
ジャイアンの1週間――46[守]新師範代登板記 ♯6
ジャイアン、祭の後――46[守]新師範代登板記 ♯7
ジャイアンの聞く力――46[守]新師範代登板記 ♯8

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

  • スコアの1989年――43[花]式目談義

    世の中はスコアに溢れている。  小学校に入れば「通知表」という名のスコアを渡される。スポーツも遊びもスコアがつきものだ。勤務評定もスコアなら、楽譜もスコア。健康診断記録や会議の発言録もスコアといえる。私たちのスマホやP […]

  • フィードバックの螺旋運動――43[花]の問い

    スイッチは押せばいい。誰もがわかっている真理だが、得てして内なるスイッチを探し出すのは難しい。結局、見当違いのところを押し続け、いたずらに時が流れる。  4月20日の43期[花伝所]ガイダンスは、いわば、入伝生たちへの […]

  • 【多読アレゴリア:勝手にアカデミア】勝手に映画だ! 清順だ!

    この春は、だんぜん映画です!  当クラブ「勝手にアカデミア」はイシス編集学校のアーキタイプである「鎌倉アカデミア」を【多読アレゴリア24冬】で学んで来ましたが、3月3日から始まるシーズン【25春】では、勝手に「映画」に […]

  • 【多読アレゴリア:勝手にアカデミア③】2030年の鎌倉ガイドブックを創るのだ!

    [守]では38のお題を回答した。[破]では創文した。[物語講座]では物語を紡いだ。では、[多読アレゴリア]ではいったい何をするのか。  他のクラブのことはいざ知らず、【勝手にアカデミア】では、はとさぶ連衆(読衆の通称) […]

  • 【多読アレゴリア:勝手にアカデミア②】文化を遊ぶ、トポスに遊ぶ

    「鎌倉アカデミア」は、イシス編集学校のアーキタイプである。  大塚宏(ロール名:せん師)、原田祥子(同:お勝手)、角山祥道(同:み勝手)の3人は、12月2日に開講する【勝手にアカデミア】の準備を夜な夜な進めながら、その […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。