この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「それはまるで、枕詞のような卒門式になると思います」
鈴木康代([守]学匠)は、20周年感門にて宣言した。
「いつかこのときを思い出すと、『あの場所に、あの人がいた』そう思えるはず」
ディスタンスこそが、互いのトポス性をあぶりだす。学衆は日本全土に散らばり、指導陣は数カ所の拠点に集まった感門之盟「Edit Japan 2020」。日本を編集するというテーマを体現するように、松岡校長は編集学校の4つの地域支所に書を贈った。2日目のオープニングで一斉にお披露目となった。
誇らしげに額を掲げる各地映像を見てみれば、書の顔つきはまったく異なっていた。
東北支所・未知奥連(みちのくれん)には、あおあおとしたケヤキ並木をスキップするような筆づかい。中部支所・曼名伽組(まんなかぐみ)が、反り返るシャチホコのように硬質でスタイリッシュな筆致なら、九州支所・九天玄氣組(きゅうてんげんきぐみ)は、西郷隆盛の眉を思わせるくろぐろとした生命力が満ちている。
そして、松岡校長の生まれ故郷・京都を擁する奇内花伝組(きないかでんぐみ)には、鴨川に揺れる柳のような、いちだんとたおやかで流麗な書が贈られた。松岡校長は、これらの書の制作にあたり、何パターンも書いては捨てたという。
東京・本楼で制作された書は、20周年感門前日、大阪・近畿大学ビブリオシアターに届けられた。
ダンボールとプチプチの十二単をそっと脱がせると、金色の額に収まったつややかな書が眠っていた。カメラマン木藤良沢は、その寝顔を見るなり、ビブリオシアター内でロケハンに繰り出した。探したのは、書が語りだす場所。
額が舞台を見つけると、墨字はぱちりと目を覚ます。金の墨汁が混ぜられた「感門」の二文字はきらっと笑う。重厚な書棚ではクラシカルに、白い螺旋階段ではモダンにと、その表情をくるくる変える。関西は、豊穣な歴史を土壌とし、色とりどりの文化が花開く土地。この書は、故きをたずね、ハイパーな将来へむかえという奇内花伝組へのしずかなる発破だった。
近畿をテーマにした1F NOAH 棚33にて
1F NOAHと2FDONDENをつなぐ螺旋階段にて
(制作風景撮影:後藤由加里、本楼にて)
(アイキャッチ写真出演:福田容子[左]、山根尚子[右])
(書撮影:木藤良沢、近畿大学ビブリオシアターにて)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。