この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

2014年は暑い夏だった。集団的自衛権の行使が容認され日本中が騒然とするなか、8月、広島市北部では豪雨による土砂災害が発生。山稜がパックリ割れて、家々を木っ端微塵になぎ倒した。9月には御嶽山が噴火。戦後最悪の火山災害は、暗黒の地獄絵となった。これでもか、これでもかと続いた惨禍はまだ記憶に生々しい。
さらに東日本大震災、日本ではじめての原子力発電所の爆発から3年経っていた。まだまだ余震は続いていた。震度1以上は千回以上を数える。復興と原発の始末は、遅々として先がまだ見えず忘却だけが進んでゆく。そんな夏、ハリウッド版『ゴジラ』が日本に上陸したのだった。
こうした「2014年を語る一冊」とくれば、もちろん
『ゴジラとナウシカ』赤坂憲雄(イースト・プレス)。
著者は、3.11から1週間後、地下の書斎に籠もって、怪獣映画『ゴジラ』(1954年)とアニメ版『風の谷のナウシカ』(1984年)に見入ったという。地震と津波と原発事故の光景が、『ゴジラ』と『ナウシカ』の映像に重なったという。その巨大な災厄の生々しい傷痕に、この年の水と火の荒ぶる力、被災した人々や被災地の悲惨な情景がさらに重なってくる。
壊滅から再生へ。どう未来への希望を紡ぐことができるのか。切実な問いが聞こえてくる。切ないけれども、とにかく、歩み続けなければならないということは確かなのだ。8月に出版された本書の「あとがき」には、1954年の『ゴジラ』にたいする深い敬意が感じられたというハリウッド版『ゴジラ』へのオマージュが、熱っぽく綴られている。
ぼくは、21花を7月に放伝したばかりだった。入門は2年前の28守で、3.11から1年後。なぜそのとき突然入門したのか。それまで放射能の見えない恐怖を感じながら、仕事柄、避難者や被災地と直にかかわることがあった。こんな切実感が、さあっと、ぼくの背中を押してくれたのかもしれない。
この年、編集学校の夏から秋のトピックス。8月に第1回「ISISフェスタ」が行なわれた。そして、前年結成された「ふくしま再生プロジェクトの会」による「ふくしま、ひとしずくの物語――再生へ祈りをこめて」が、10月に本楼で開催された。校長をして《うつくしい一刻だった》と言わしめたイベントになった。
会は現在、田母神代表の「どりぃむくらふと福島」に引き継がれている。発行冊子『郡山マルシェガイド2020』が今年も送られてきた。彩り豊かな野菜たちが表紙に踊る。ページから飛び出る子どもたちの笑顔がいい、すっくと立つ大人の目がとてもいい。
それでは「2015年」へ、
渡會眞澄冊師に、バトンをお渡しします☆
――― ■スタジオ ポテチ 冊師 宮野悦夫
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。